隠された障害

インターンをしていた大学院時代を入れると、かれこれ15年以上障害者の支援に関わってきたが、何年たっても難しい(大事)と思うのは、表向きの障害名に惑わされずに、障害者個人の実生活上の真の「障壁」を発見することである。例えば、ヒロのカレッジには現在…

重度障害者の発言力

新しい上司が着任して引継ぎ事項を手伝っている間にあれよあれよと春学期が終了してしまった。終了直前の週は、秋学期のクラスを登録したり、ノートテーカーや手話通訳などの援助サービスを要求する障害学生がたくさんラボを訪ねた。そのうちの3人、ケオ、…

悟りの瞬間

しばらく執筆をサボっていて「書かなきゃ、書かなきゃ」と思いながらも瞬く間に時が過ぎもう3月も半ば。普段は「書かなきゃ」という強制的な心情になる前に思いつくことが向こうからやって来てすぐパソコンに向かうのだが、2,3週も過ぎてしまうと書かないことの…

不安と安心の同居

2月のこの時期、多くの学生が奨学金や学生ローンの申請をするためにラボにやってくる。申請方法がオンラインだからだ。そのうちの一人、ルーディが最近コンピュータを前に一日に数時間も奨学金申請にタックルしている。何回か顔を合わせたある日、「エッセイ…

「障害者らしく」ない障害者

ある日ラボに学生が来て、「隣の教室の授業が始まるまで、廊下で座って待ちたいのでいすを貸してくれないか」と言う。見たことのない顔だったので「障害学生サービスセンターに登録してますか?」と聞いた。ラボの備品を見知らぬ人に貸せないし、廊下にいす…

未知の障害にチャレンジ

アメリカの大学で障害学生サービスセンターのサポートを受けるには、学生自ら1)障害のあることを申し出て、2)医師や心理士やソーシャルワーカーなど有資格の専門家からその証明をもらって提出すること、の二つが必要である。これはADA☆によって規定されて…

苦情調査員

普段の仕事とは直接関係ないのだが、今学期はキャンパス内のある極秘調査に関わっている。障害学生サービスセンターに勤め始めて最初の2年間は全く知らなかったことだが、ハワイ大学職員には本業のほかに、特別委員会やら特別プロジェクトやら様々な副次的な…

ピンキーの才智、カインの勇気

9月の末から週に一回、障害学生のためのサポートグループをしている。大学が今学期からはじめたパイロットプログラムの一つで、何か問題があるとすぐにカウンセラーやスタッフを頼ってくる依存度の強い学生を少しでも減らし、学生自身が互いに助け教え合う…

延長テスト時間

アメリカの大学で、障害があると自認する学生の約4割までに学習障害があるというデータがある。この数字は私の勤務場所にも当てはまる。そして学習障害のある学生のほとんどが「テスト時間の延長」という合理的配慮(アコモデーション)を受けている。これは例え…

マルチセンソリー・ティーチング

昨日は土曜日で普段なら寝週末と決め込むのだが、興味深いセミナーがあったので朝からヒロまで行って来た。セミナーのタイトルは、「ニューメディア・アカデミア:新しい教育環境における学習法・教授法」というもので、学習教材を主に作っている大手出版社…

「特別支援ラボ」

金曜日、上司も同僚も休みだったので一人でラボにいた。金曜日はもともと授業があまりないので普段は余り忙しくないのだが、午後2時過ぎになって同時に二人来た。一人は中年のハリーで私の上司に会いに来たという。「もしかすると私でも役に立てるかもしれな…

何かを変えるということは

9月3日号でコクア・ラボが西洋近代式の個別テクノロジーラボに変わったと書いた。がその後、あまりに障害学生の評判が悪いのと、学生部長自身が考えを和らげたのか、18日のミーティングの結果、「誰でも利用できるマルチ・メディア・ラボ」に再び変わった。…

ゴー・アンド・ビヨンド(I)☆

9月も半ばを過ぎてやっと今学期のノートテーカーの顔ぶれがそろった。昨日まで毎日のように学生アルバイトであるこの職の応募者が絶えなかった。というのは面接の結果採用となった学生でも、家庭・健康・経済事情のためすぐやめざるを得ない人が何人かいた…

サポートの東西アプローチ

新学期が始まり早や二週間。新しく始まった学生サポートプログラムが2つある。一つは私の勤めるコクア・ラボが最新テクノロジー・ラボに新生したことだ。夏までは障害学生サービスセンターに登録した学生なら誰でも利用できた。宿題をしたり、奨学金・助成…

ボトムアップのファシリテーター

長かった夏休みもようやく終わりに近づき、キャンパス内は騒然とし始めた。先週、私の所属する学生部☆の主要メンバーが集まり今後5ヵ年の学生部改造計画を話し合った。カウンセリング課、財務課、登録課、記録課など学生に対して様々なサポートサービスを提…

瞑想とカウンセリング

最近ふとしたことがきっかけで、近所で開かれている座禅の会に参加し始めた。毎週土曜日の朝、鬱蒼とした森林の中の貸し別荘の道場を借りている。もともとヒロで長く座禅会を主事しているアメリカ人夫婦が、50キロ離れた山里ボルケーノ村に住む知人の要請と…

陪審制度の教育的意義

近所の友人ローラが最近興味深い話をしてくれた。この半年間、彼女は月一回ハワイ島の反対側にあるコナまで陪審審理の義務に出かけているという。陪臣に選ばれた人は皆その日は公休をとって仕事を休む。アメリカでは長いこと国民の義務として定着している制…

知的障害者の大学進学

2008年に高等教育法が改正☆され、知的障害のある生徒の大学進学を促進することになった。とはいっても小学校過程の読み書き計算でさえ難儀するのが「知的」障害なのだからどうやって大学の授業などわかるのか、と思う人は多いだろう。事実、私の勤めるヒロの…

高校生から大学生への劇的変換

先週、高校卒業生の大学進学に関する秀逸なオンライン・ライブ講座があった。これはAHEAD☆という全米の教育組織が主催したもので、講師はオハイオ州シンシナティのコミュニティ・カレッジで障害学生サービスセンターのディレクターをしているジェニファー・…

アグネスのアドボカシー力

3日は今年度最後の授業だった。これから一週間は期末試験週間となって10日に2011年度が終わる。その後約3ヶ月、学生と教師は長い夏休みに入る(が、私は通年勤務なので夏も働く)。 授業最終日に学生が次々にラボに来て「ハブ・ア・グレイト・サマー」(良い…

従業員支援プログラム

最近仕事上でちょっとした悩みが続いた。たまたまハワイ大学機構が「従業員支援プログラム(EAP)」☆を無料で提供しているという案内メールを見たので、早速問い合わせ番号に電話すると「ではハワイ島東部担当のカウンセラーから連絡がいきますから待っててく…

たかが言葉、されど言葉(3)

2月11,12日についで障害関連の言葉を考察する第3回目。昨日、上司がラボへ来て「最近、うちの住所宛先が問題になっているのよね」と言い出した。何でも、封筒や便箋にあらかじめ印刷されている「障害学生サービスセンター」の中の「障害」が気に障り、その…

17歳の処世術

高校の卒業式まであと一ヶ月余り。ハワイ島の高校では、特殊教育を受ける12年生☆の卒業後の進路をまとめるミーティング☆☆の追い込みに入っている。今週、ある高校で特別支援学級プログラム☆☆☆を受けている女生徒のミーティングに出かけた。 生徒はマギーとい…

ユニバーサル・コース・デザイン(2)

障害のあるなしに関わらず多様な学生すべてにわかりやすくするため、講師側が教え方の工夫しなければならない、というのがユニバーサル・コース・デザイン(UCD)の主眼だった。例えば、あるクラスに次のような学生がいたとする。1)いつも疲れているため…

ユニバーサル・コース・デザイン(1)

昨日キャンパスで、ユニバーサル・コース・デザイン(UCD)についての研修講義があった。ハワイ大学機構で働く職員には教える教授・講師だけでなく、より優れた高等教育教授者・サポートスタッフになるための研修がしばしば開かれる。昨日の講義はその一環で、…

シェリーとジュリー

私は仕事上、学生アルバイトを常時12,3人雇っている。全員が障害学生のためのノートテーカーだが、経験をつんだ人の中からコクア・ラボのアシスタントもしてもらっている。人生経験豊かで障害者の応対に慣れている人が多い。だから私は部下というより、同僚…

トラウマとリハビリテーションーレジリエンスその4

「目は口ほどにものを言い」とか「40になったら顔に責任を持て」とか、顔は人格とか意思を表す大事な体の部分。そこに障害をもつということは他の部分に障害をもつより厳しいチャレンジに向き合うということだろう。先週ある高校の特殊教育学級を訪れたと…

あなたのなりたいものは?

ここ数日、今夏に入学してくる(したい)高校生との面談で忙しくしている。私の仕事の一つに高校卒業生のリクルートがあって、高校生をラボに招待したり、自分から高校の特殊教育学級を訪れたりしている。日本と違っていつでも大学に通えるアメリカでは、「…

たかが言葉、されど言葉(2)

「言葉を変えることで人の態度を変えるきっかけになるかも」というニック君の言葉からいろいろ考えた。私が今までなんとなく「障がい者」とか「障害者」と一貫せずに書いてきたのは、自分自身どちらがいいのかよくわからないからだ。自分の人生のほとんどの…

たかが言葉、されど言葉(1)

「知恵遅れ」とか「頭がおそい」などと言う表現は、日本ではずいぶん前から公的な場では使われなくなっていたと思う。今ではほとんどが「知的障害」や「発達障害」と呼ばれている。アメリカでこの言い換えが正式に起こったのが、ちょっと驚くことについ2010…