あなたのなりたいものは?

 ここ数日、今夏に入学してくる(したい)高校生との面談で忙しくしている。私の仕事の一つに高校卒業生のリクルートがあって、高校生をラボに招待したり、自分から高校の特殊教育学級を訪れたりしている。日本と違っていつでも大学に通えるアメリカでは、「しばらく学業を休みたい」「ちょっと世界を放浪してくる」などと考える若者は少なくない。高校最終年になっても卒業後何をしたいのかわからない生徒は実に多い。だから私の仕事は大学生になることの意味と、障害を持っているが故の更なる努力の必要性を彼らに真剣に考えてもらうことだ。
 ハワイは外国人旅行者には一見華やかに見えるところかも知れないが、住んでみると特にオアフ島以外の離島の暮らしは職業選択肢が非常に少なくてほとんどが「その日暮らし」と言ってもよいくらい大変だ。子沢山で収入が足りないから生活保護を受けている人が多いし、2つ以上仕事をしたり本土に出稼ぎに出る人も多い。私が雇っている学生アルバイトと同僚の多くが生活保護を受けている。働いているのに、だ。そして高等教育を重視している大人がオアフ島や本土に比べると少ない。これは、いい悪いを抜きにしてハワイ島というところが農業観光立国で、賃労働に比べて教育が重視されていない南太平洋諸島からの移民が多いためでもある。


コーヒーの花←と実↓

 昨日、特殊教育を受けている近所の高校生が二人ラボに見学に来た。男子生徒のほうへ「何で大学にいきたいの?」と聞くと「本当は行きたくないんだけど、親がそういうから」という。女子生徒のほうは「レントゲン技師になりたい」。そういう学科はコミュニティ・カレッジにはないから短大の一般教養を履修して4年制大学へ編入するしかない。が、特殊教育受けている多くの生徒(特に学習障害のある場合)で4年制大学編入へこぎつける人は、現状ではあまりいないので、私の上司などは「絶対4年制進学をすすめないように」という。それよりは2年制大学で短大の学位をとるように専攻を変えさせろ、という。そのほうがコミュニティ・カレッジでの在籍率、成績も上がるから学校側の見栄も良くなるからかもしれないが(そういうプレッシャーが上層部からかけられている)、私は一人ひとりの生徒がなぜその職業を選択しているのか、その背景を探ることに大いに関心がある。
 例えば先の「レントゲン技師」になりたい女子生徒。その仕事をどうやって知ったのか、その仕事のどういう部分にひかれているのかを聞きたい。さまざまな機器やコンピューターを使うからか、人に接して助ける点か、医学の分野だからか、果ては気に入った知り合いが働いているとか、建物がきれいとか、家からそこが近いとかさまざまに理由があると思う。それを聞きながら一緒に宝探しするようにしていくと、実はそれほどレントゲンにこだわらなくてもよくなることがある。人を助けたいがもしかすると理数系に強くないかも知れない。その場合は2年制の学位でも充分にとれる例えば助看護師の資格もある。病院や医学の分野で働きたいから、ということであれば、病院にあるほかの多くの仕事を片端からみてみるのもよい。要は「○○になりたい、したい」と言った場合、その奥深くにある動機の元を探ることで、その気持ちを暖め励ましつつも今の就職状況(労働市場)やその生徒の知的能力や性格特徴に最もふさわしい学科や職業選択肢を一緒に見つけるのがリハビリテーション・カウンセリングの真髄だ。つまり、本人の動機・熱意、能力・性格、労働市場・経済状況の三角形のマッチングをいかにうまくするかということだ。
 残念ながらこの日は、他の男子生徒や引率教師の手前、こういう込み入ったところまでその女子生徒とは話ができなかった。次回高校訪問したときのお楽しみにとっておくことにする。