未知の障害にチャレンジ

 アメリカの大学で障害学生サービスセンターのサポートを受けるには、学生自ら1)障害のあることを申し出て、2)医師や心理士やソーシャルワーカーなど有資格の専門家からその証明をもらって提出すること、の二つが必要である。これはADAによって規定されている条件である。高校卒業までは親や教師など周りの大人が障害を見つけサポートもすべてお膳立てされて生徒は何もしなくてもよかったのが、18歳(成人)になったとたん自由意思で障害の告白を課される(この劇的変化については月日号参照)。変化に慣れるだけでも一苦労なのだが、自分の障害について全く無知だった若者が、周りにきちんと説明できるようになる、つまりセルフアドボカシー力を見につけるにはさらに時間と努力を要する。
お正月に焼いて食べたオナガ(鯛)の頭

 今週は春学期開講の第一週でいろいろな学生がラボにやってきては、受講科目の変更やらテキストの購入やらで新学期特有のあわただしさだった。ある日、新顔のロイという学生が「ぼくの障害はなんでしょうか」といきなり聞いてきた。「あなたが許可してくれるならオフィスにある個人ファイルを見てみるけど」というと「OK」。彼の母校の特殊教育部によるレポートがあったのでそれを開くと「学習障害」とあった。その部分をロイに見せると、「学習障害って何?」という。「知能は正常だけと学科のテストでうまくその知能を発揮できないこと」と私は簡単に説明した。すると彼は、「数学の先生にEメールしてそのことを説明したい」という。その授業はハワイ島の反対側コナからのビデオ生中継のクラスなので「ヒロ側の学生がビデオの中の先生にどれだけ質問したりできるのか、ペースについていけるか不安」なのだという。早速「先生、僕には学習障害があります。ビデオを見ながらの授業には不安がありますが、以下の質問に答えていただけますでしょうか。。。」と書き始めた。これを見て私はロイの障害に対する前向きな理解と積極的な行動力に深く感銘した。彼は将来、海洋生物学の道に進むのが夢だ。
 もう一人の新顔はマリー。彼女は内気ながら「過去にトラウマ(心的外傷)があっていつそのフラッシュバック(再演の悪夢)があるか怖い」と教えてくれた。数年前、当時の夫から離縁されたときに10日間精神科に入院したことあるというからその頃受けたトラウマか、そしてどんな内容のトラウマなのかは知るよしもないが、「なるべくフラッシュバックが出ないようにコントロールしたい」という。「トリガー(前兆)になるものはなんだか知ってる?」と聞くと首を横に振った。「でもがんばっていい成績をとって将来は幼稚園の先生になりたいから、毎日ここ(ラボ)へ来て宿題する」と言って帰っていった。
 障害サポートサービスセンターに登録していて自分に障害があることは知っていても、その内実をきちんと把握できている学生は非常に少ない。自分の障害についてまだ未知でも積極的な学習途上にある若い二人に会って、自己認識とセルフアドボカシーの重要性をあらためて感じた。

☆ADA(Americans with Disabilities Act of 1990)アメリカ人障害者法