苦情調査員

 普段の仕事とは直接関係ないのだが、今学期はキャンパス内のある極秘調査に関わっている。障害学生サービスセンターに勤め始めて最初の2年間は全く知らなかったことだが、ハワイ大学職員には本業のほかに、特別委員会やら特別プロジェクトやら様々な副次的な業務が付加されてくる。確かに人材募集要項を見てみると最後のところに「その他、時期や情況により与えられる追加業務」という曖昧な文章があり、私が今関わっている極秘調査はこの部分に当てはまる。
 極秘だから詳しくは書けないが、要は、セクハラ、肉体的・心理的虐待、そのた諸々の人権差別に該当する苦情を、学長の命を受けて調査する仕事である。私にはこういう仕事の経験が全くないので、もう一人人事課の経験者がいってみれば私のボスとして任命された。その人と二人で調査を始めて早3ヶ月が過ぎようとしている。
コミュニティ・カレッジ構内に植えられたサトウキビ。かつてはハワイ島全体を覆いつくしていた基幹産業品だったが、1996年を最後に砂糖プランテーションはすべて閉鎖された。その名残をとどめるために大学生が植えたもの

 全く畑違いの業務なので、どうなることやらと思っていたのだが、実はいろいろと学ぶことがあった。まずそのボス曰く、「余りに簡単に苦情を提出する人がいて困る」。つまり、本来「苦情申し立て」は法的な最終手段であって、それ以前に調停とか示談とか、つまりもっと非公式なレベルでの話し合いがあってしかるべきで、最近の職員は「いとも簡単に『キレて』すぐに最終手段に訴えるので人事課や学長の仕事がやたら増えて困る」ということだ。それは、最近の職員に辛抱がなくなったのかもしれないし、あるいは不服を申し立てた人の部署内のコミュニケーションがうまくいってないのかもしれないし、またはその部署に本来はそこでそれを調停すべき有能な上司がいないのかもしれない。あるいはそうではなくて、近年人権擁護の意識が高まり、「苦情申し立て」という、以前は余り利用されなかった公的法的手段に対する知識と理解が広まって、それをうまく利用する人が増えたというむしろプラスの意味があるのかもしれない。また、上記すべてが理由であるかもしれない。いずれにしても大学の職員数はこの数年増えていないはずだから、受理された苦情件数がウナギのぼりであることは確かだ。
 調査を始めて思ったこと。これはセクハラと人権差別の両方に該当する立件なのだが、私が「Aさんがこういってましたね。それが本当ならばひどいと思います」とボスに言うと、「今言ったことに気をつけて。私たちの結論は、相手方の話も聞くまでは絶対出してはいけない」と忠告された。確かに、調査中に名前の挙がった人すべての話を聞くまでは何を感じても思ってもいけないのだ。これはおそらく、裁判官などの仕事につく人には座右の銘だろう。そしてまた弁護士とかカウンセラーなどの職につく人にも当てはまるだろう。カウンセラーは『クリーン・スレート(白紙の心)』でクライアントに接しなければならない、という大学院時代に学んだ心構え第一条を思い出した。そしてこれが実に難しいことでもあることを今再確認させられている。