瞑想とカウンセリング

 最近ふとしたことがきっかけで、近所で開かれている座禅の会に参加し始めた。毎週土曜日の朝、鬱蒼とした森林の中の貸し別荘の道場を借りている。もともとヒロで長く座禅会を主事しているアメリカ人夫婦が、50キロ離れた山里ボルケーノ村に住む知人の要請と場所提供者の厚意があって始めたものだ。このご夫婦は、日本の禅寺で修行して印可をもらいアメリカに初めて臨済禅をもたらした故ロバート・エイケン老師の高弟だからその教えの信憑性は血統書つき。土地柄を反映してボルケーノ村の参加者は自営業や芸術家が多いのだが、ヒロやアメリカの他の都市では様々な職の人が参禅しているという。そういえば、昨年亡くなったアップル社のスティーブ・ジョブズ氏も熱心な禅の信者だった。傍目には、スピードと効率と日進月歩の技術開発が命であるIT企業の最先端をいき人生を駆け抜けるようにして逝った彼も、心は無の境地になることでバランスをとっていたのかも知れない。
久しぶりに帰国した日本でいただいた昼食。新宿の「農家の台所」にて

 ボルケーノ村の座禅会を主事している奥さんのヴィッキーさんは臨床心理学者なのだが、座禅会の主事を担う人にはどういうわけか心理学の分野の人が多い。私が以前住んでいたサンフランシスコ近辺の座禅会でも2つの会が心理学者と臨床心理士によって開かれていた(ただしこれは禅とアジアの影響を多大に受けている西海岸の土地柄かもしれない)。ヴィッキーさんによれば今年の全米心理学会の20のプレゼンテーションのうち5つまでが座禅(メディテーション)による心理療法についてのものだという。自閉症や重度の行動障害のある人の治療にメディテーションが効果があることを科学的に実証しているのだそうだ。これまで問題行動に対する療法と言えば、いいことをしたら褒美をあげて悪いことをしたら罰するという賞罰法や、デセンシタイゼーションといって徐々にのぞましい行動に慣れさせるなど、行動療法が主流だったのだが、メディテーションを取り入れた療法ではいいことも悪いこともその人の真実としてうけとめる。これ以上の詳しいことは私自身の勉強不足で今は書けないが、座禅会のあとのヴィッキーさんの話はこのような興味深いものだった。
 俗世を離れ山にこもった修行僧のする座禅というイメージがあったが、アメリカでは俗人がよりより暮らしを求めて手軽に始められて(もちろん解脱に至るには途方もない修行が必要)複雑な心理や行動の問題の解決にも役立ってきている。日本(アジア)のお家芸をあらためて見直している。