たかが言葉、されど言葉(1)

 「知恵遅れ」とか「頭がおそい」などと言う表現は、日本ではずいぶん前から公的な場では使われなくなっていたと思う。今ではほとんどが「知的障害」や「発達障害」と呼ばれている。アメリカでこの言い換えが正式に起こったのが、ちょっと驚くことについ2010年のことだ。10月5日、オバマ大統領がホワイトハウスで法律に署名をして、侮蔑感の強い「精神遅滞」(Mental Retardation=メンタル・リターデーション)と言う言葉が一斉に消え、「知的障害」(Intellectual Disability=インテレクチュアル・ディスアビリティ)と言い替えられることになった。
テトの朝寝。日の当たった溶岩の上は温かくてねむくなる~

 その法律はローザ法(Rosa’s Law)といってメリーランド州にある同名の法律を連邦法に進化させたものだ。当時9才だったローザ・マルセリーノちゃんの名を冠している。彼女にはダウン症があって、ご両親と兄弟が州の上院議員に訴え、またその議員が障害者団体と連動して連邦法にこぎつけた。今、全米に巻き起こっている知的障害者支援のための法や助成金の嵐は、このローザ法によってさらに強化されている(例えば、私の働くヒロのコミュニティ・カレッジにも今秋、知的障害のある学生たちが何人かパイロットプログラムの支援を受けて入学してくる)。
 オバマ大統領のスピーチをビデオで見てみた。その中でローザちゃんとお兄さんのニックくんが紹介されている。「たかが言葉の言い換え、と思う人もいるかも知れない。が、(この法律の真髄は)ニックが一番よく言い表していると思う」と言って、オバマ大統領はニック君の言葉を紹介した。「人をどう呼ぶかでその人にどう接したいかが表れる。人の呼び方を変えればその人に対する接し方や態度を変える第一歩になるかもしれない」。
 言葉を変えたからといって人の態度が急に変わらないのはアメリカでも日本でも同じ。だからニック君は「第一歩になるかも」と言ったのだ。一市民・家族の訴えから連邦法が可能になるアメリカの底力をみた気がした。だが、日米の状況に大きな違いが一つある。日本の差別用語禁止は国会などで決められるわけではなく、どちらかというと障害者団体などの訴えをマスコミなどが受けて自主規制しているということ。日本も捨てたものじゃない、と思った。もっともアメリカの法律ほど拘束力もないといえばないかもしれないが。

http://www.whitehouse.gov/photos-and-video/video/2010/10/08/president-obama-signs-21st-century-communications-video-accessibil