お金と幸せの関係

 共和党大統領候補者選のニュースが毎日のように流れている。失業率がに上方向に改善されオバマ大統領は早速それを盾に防衛戦に出ている。一見関連なさそうな政治の動向も教育現場に如実に影響を及ぼしている。
 連邦政府が発表した2012年度教育予算(今年7月から来年6月まで)によれば、今年の秋学期の新入生から、授業料免除の対象となる低所得の学生(26歳未満の場合は保護者)の年収上限額が3万ドル(約230万円)から2万3000ドル(約180万円)へと引き下げられた。これにより多くの学生が受給資格を失う。失業率は改善されたとはいえ、申請しない人や失効(受給資格満了)した人を含めればまだまだ多くの人に職がない。職もなく大学にもいけない人が増えることは必至である。
ラバ・ツリー。ここにはかつて森林があったが74年の溶岩流に飲まれた。木の周りに瞬時に灼熱の溶岩が巻きつきこういう形になった。中の木は燃えてしまって空洞になっている

 全米の公立大学では、秋学期に向けけ授業料免除や奨学金の申請をする学生が今の時期一番多い。教科書代なども出る優先受付の締め切りが3月1日だからだ。先日、グラフィックデザイン科の学生であるレイが来て、その申請をコンピューターでしていたので手伝った。収入など個人情報を細かく打ち込むので、わたしが見ててもいいのかな、と思ってたずねると「あっ、ぜーんぜん構わないよ」。彼の現収入は障害者年金のみで年に17,000ドル(約130万円)。5年前までは正規の従業員11人を抱えたかなり成功したビジネスマンだったが、バブルがはじけて一気に没落。腰痛や足の障害もひどくなり生活保護受給者になった。「昔はお金がいっぱいあったけどストレスもすごかった。今が一番幸せだよ。すがりつくものがなくなると気持ちもらくだね。ワイフは『孫にやるお小遣いくらいはほしかった』と悔やんでるけどね」と明るい顔で言った。
 その日の午後、ロバートがラボに来た。初老のハワイアンで、コンピューターの基本を習っている。いつも2時間ほどクラスの予習と復習をして、最後に習ったところをプリントアウトして帰る。この日は、Gのキーを打てるようになった。「ぼくは住んでいるワイメア(ハワイ島中心部にある町)で週3日、学校の給食室で働いているんだ。僕がボスだよ。何年もやってるからカフェテリアのことは何でもわかるからね〜。いい仕事だよ。で、そこの大ボスが、残りの週2日は大学へ行ってコンピューター習うように勧めてくれたんだ。今日はいろいろ手伝ってくれてありがとう」と言ってうれしそうに帰っていった。ロバートには何の障害があるのか私にもわからない。最近の世間の暗い話で、わだかまりつつあったわたしの心をさらっと溶かしてくれた二人だった。
 お金と幸せの間に相関関係はないと思った。