マルチセンソリー・ティーチング

 昨日は土曜日で普段なら寝週末と決め込むのだが、興味深いセミナーがあったので朝からヒロまで行って来た。セミナーのタイトルは、「ニューメディア・アカデミア:新しい教育環境における学習法・教授法」というもので、学習教材を主に作っている大手出版社の主催だった。最初に3人の教授が「われわれはどう教えるか」、次に3人の学生が「われわれはどう学ぶか」をそれぞれパネルディスカッションし、この数年激変しつつあるメディア環境において、それらをどう活用しながら教え、また学ぶ効果を高めていくかを話し合った。
 実に様々な角度から多様なディスカッションが出た中で、特に私の注意を引いたのが次の点だ。まず、学生パネルの一人が、「教授の中に板書する内容をアイパッドに書いて(タイプして)それをプロジェクターでスクリーンに映しながら授業する先生がいた。授業後彼はその内容をそっくりクラス特定のオンライン掲示板にアップロードしたので、出席した学生はそれを見て復習でき、また欠席した人でもクラス内容がわかって、とても学習に役立った」とコメントした。このセミナーは教育における新メディアの利用が焦点で、特に障害学生のためにというわけではなかったが、このようなオンラインベースの板書法だと障害学生に対するサポート効果も大だと思った。テキストリーダーやメディア・プレーヤーを使えば学習障害や視覚障害のある学生にも役に立つ。
散歩の途中で。朝日を受けるハプウ(シダの木)

 また、コミュニケーションのクラスを教えている教授パネルの一人は「オンラインベースのクラスだと、教室ではとても静かで後ろに座るような学生が期せずしてチャットやブログなどではとても雄弁だったりシャープなコメントをしたりして、学生の様々な面を知ることができてよい」と発言した。特にアジア・太平洋地域からの移民の子孫が多いハワイ大学では、シャイな学生はアメリカ全国平均より多い。典型的なアメリカ本土の大学では往々にして、教室でいかに多く発言したか、リーダーシップをとったかなどが成績評価の一部になることが多いが、オンラインベースのチャットやディスカッションを取り入れると内向的な学生も参加しやすくなる、という点は、言語障害や一部の精神障害のある人など、公けの場での発言に困難を感じる学生にも大いに当てはまる。
 最も感銘を受けたのは、地学を教える教授のマルチセンソリー・ティーチング。人間の五感すべてに訴える多感覚教授法という意味だ。彼は自分の授業をすべて毎回録音しビジュアル教材もクラス特定のオンライン掲示板にアップデートする。中間と期末時期にはオンラインの評価システムを利用してこれまでの授業内容が問題なく入手できたか、内容はわかりやすかったかなどの評価を学生から得る。これはインターネットで無料で使える無記名のアンケート、誰が何をコメントしたかわからないようになっており率直な意見が聞けるとともに、書いた内容によって学生自身の成績には影響しないようになっている。コメントのなかでこれは、と思うものがあれば早速取り入れる。さらにクラス特有のフェイスブック・ページがあって誰でも投稿できる。ツィッターも利用。課外学習のときなどために自身のテキスト(文字)電話番号を公表し、クラスの学生全員それぞれとの意思疎通を万全にはかる。「フェイスブックやツィッターには迷惑をこうむることもあるけど、今の学生のコミュニケーション方法に合わせると利点のほうが多い」という。ただし、「伝統的な生身の人間同士のコミュニケーションと一人静かに時間を持つことの大切さも密かに教えるテーマとして持っている」とも。そして自分自身ハワイ大学で2つの授業を受ける学生でもある。「教えることと学ぶことの根は一つ」という哲学の持ち主だ。学ぶ姿勢を忘れたらよい教師になれない、ということなのだろう。彼のクラスをとてもとってみたくなった。