シェリーとジュリー

私は仕事上、学生アルバイトを常時12,3人雇っている。全員が障害学生のためのノートテーカーだが、経験をつんだ人の中からコクア・ラボのアシスタントもしてもらっている。人生経験豊かで障害者の応対に慣れている人が多い。だから私は部下というより、同僚という感覚で接している。彼らから学ぶことも多い。
 最近学生アルバイトの二人に大きなニュースがあった。一人は先学期の暮れに乳がんが見つかって今学期一杯休んでいるシェリー。まだ28歳で6歳の息子を一人で育てているシングル・マザーだ。当然のことながら生活保護を受けているがとても前向きで周囲がぱっと明るくなる性格の持ち主だ。幸い癌は初期発見だったので手術後は放射線治療のみで現在回復中である。彼女はDV(ドメスティック・バイオレンス=パートナーや家族からの暴力)を受けて長くカウンセリングを受けていた。仕事の経験が豊富で、凶暴で無礼な客をどううまく退けたかとか、あごのない傷痍軍人がバイト先に来たとき店内が騒然となったのにも関わらずいかに平静に彼女が彼を普通の客として丁寧に応対したかとか、人生経験豊かな老人でさえ感心するような話をよくシェアしてくれていた。来学期には復帰してくれることを願う。
コミュニティ・カレッジの近くで。パパイヤとバナナの木

 もう一人はおととい「パニック障害」があると診断をされたジュリー。彼女も28歳。ちょっと心配性気味の人だとは思っていたが、最近になって「心臓がどきどきする」とか「車が怖くて運転できない」とか「頭がくらくらする」などの症状を訴えていて遅刻や欠勤が多かった。心臓や脳の検査をすべてした結果、身体には異常がないことがはっきりし、カウンセラーによって上の診断名が確定した。精神疾患の一部であるこの診断を受けて、非常にショックの様子で昨日「ちょっと話しに来てもいいか」とやってきた。ほとんど彼女に話すに任せていたが、「心理的な問題なんて今までなかったのに恥ずかしい」と彼女が言ったときに私は次のように反応した。「体が風邪ひいたら仕事や学校を休むし家族や友人にもそう言えるでしょ。(パニック障害のように)心が風邪ひいたっていいんんじゃない?同じ体なんだから。もしかすると今までがんばりすぎたので、体のほうで『ジュリー、ちょっとスロー・ダウンして』と信号を送っているのかもよ。ラボの仕事のスケジュールはいつでも変えられるから、自分にとって一番リラックスできることは何か考えて、あなたにとって一番無理のないスケジュールを教えてちょうだい」。すると今まであまりに遅刻とか欠勤が多かったジュリーは「クビになるんじゃないかと心配だったけど安心した。ありがとう、話してよかった!」と言って帰っていった。その後で、月曜日は休みにするが、残りの日は今まで通りのスケジュールで働きたい、と言ってきた。ジュリーはあと2ヶ月でハワイ大学を卒業する。最後の学生アルバイト経験をぜひ実りあるものにしてほしいと思う。