高校生から大学生への劇的変換

 先週、高校卒業生の大学進学に関する秀逸なオンライン・ライブ講座があった。これはAHEADという全米の教育組織が主催したもので、講師はオハイオ州シンシナティのコミュニティ・カレッジで障害学生サービスセンターのディレクターをしているジェニファー・ラッドさん。
 アメリカには、高校卒業生なら老若男女誰でも入試なしに入れるコミュニティ・カレッジという2年制の大学がある。これはいわゆる日本の短期大学というよりは、4年制総合大学の前半2年の一般教養科と考えたほうが近い。で、問題は入試がないから猫も杓子も入学してくることになって、大学に入ったはいいが、講義についていけずドロップアウトする学生が多数出ること。私の勤めるハワイ・コミュニティ・カレッジでも近年の卒業率(3年以内)は2割強。これでもハワイ州の全平均よりは高いのだが。
 話はそれたが、この厳しい大学生活をどう学生がサバイブして卒業までこぎつけるか、またどうやってそれを講師・スタッフ陣が手助けするかが、ここ数年のトップ懸案だ。とりわけ高校生活から大学生活への劇的変化にどうスムーズに適応させるかが筆頭テーマである。障害のある学生ならばなおさらのこと。なぜ劇的変化なのかといえば、高校までは障害児教育法☆☆により、1)親や教師がすべてお膳立てしてくれる、2)学校側が障害生徒を発掘してそのサポート内容をすべて決める、のに対し、大学では1)学生自身が障害のあることを証明し、サポートサービスがほしいと自分から言わなければならない、2)どういう内容のサポートサービスがほしいのか、自分の障害がどう学業に影響するのか、自分の障害についての精密な理解とそれを他人にわかるように説明できなければならない、からである。人間は子どもから大人へと変わるのに一朝一夕にはいかないのに、教育システムや法だけはそれを要求する。
このオンライン・ライブ講座では字幕がついた。スクリーンのどこにでも映せて便利


 そこで先のAHEADという組織でもセミナーやワークショップで、どうやって障害のある高校生から大学生への変換ををうまく遂げるか、よくディスカッションしている。障害のある高校生の進学を援助するポイントとしてラッドさんが列挙した中で特に強調したのが以下の2点である。 
 1.障害サービスサポートセンタースタッフのアウトリーチ活動
 2.高校における大学進学フェア
 1は、高校生活と大学生活には劇的な違いがあるから、その違いを高校生のうちに何度も説明して理解させること、そのために大学の障害サービスセンターのスタッフが高校へアウトリーチに出かけることが大事だ、ということ。生徒の個人教育計画☆☆☆の会議によばれたりしたらぜひ参加せよ、という。高校生のうちから障害生徒の経歴をつかんでおくとあとで役にたつからだ。そのためラッドさんも忙しい時間をやりくりしながら高校へよく出かけるという。
 2は、高校の先生たちと協同で高校における大学進学フェアを開催すること。全生徒・保護者を対象にした全体説明会のあと、学習障害・知的障害・自閉症・注意欠陥多動症など、障害別の分科会などを開いて保護者の意見や質問を直接受けられるようにする。保護者側も大学にはどういうサポートサービス体制があるのか、子どもが高校生のうちからわかってより安心できるという。日本と違ってアメリカはメインストリーミングが進んでいるが、日本の特別支援学級でもこれはできると思う。
 いずれにしても法が整っているだけでは障害のある生徒がうまく大学生活を送れるわけではない。高校生から大学生への劇的変換をさなぎの脱皮の如く遂げることを求められているのだが、昆虫のように自然本能ではできないからそれを手助けするのが障害学生サービスセンターの重要な役割なのである。

AHEAD−Association of Higher Education And Disability(高等教育と障害に関する研究とネットワーキング推進のための全米組織)
☆☆障害児教育法−Individuals with Disabilities Education Act(IDEA)
☆☆☆個人教育計画−Individual Education Plan (IEP)