アグネスのアドボカシー力

 3日は今年度最後の授業だった。これから一週間は期末試験週間となって10日に2011年度が終わる。その後約3ヶ月、学生と教師は長い夏休みに入る(が、私は通年勤務なので夏も働く)。
 授業最終日に学生が次々にラボに来て「ハブ・ア・グレイト・サマー」(良い夏休みを!)とお互いに言っては去っていった。そのうちアグネスが「とてもいいニュースがあるの」といいながら入って来た。「あの駐車違反の切符、25ドルにまけてもらえたの」と言う。そういえば一ヶ月くらい前に「250ドル(約2万円)の違反」と書かれた紙を手にしてパニック状態で彼女がラボに来たことがあった。その時、学生アルバイトと私とでハワイ大学の駐車場管理課に嘆願書を書くのを手伝った。その手紙が功を奏したらしい。内容は、彼女には内部障害があって障害者パーキング場に駐車できる許可証を所有しているのだが、たまたまその日は病気で頭がボーっとしていたのでそれをバックミラーに掲げるのを忘れてしまった。これからは十分に気をつけるので今回は斟酌してほしい、と言うようなもの。その手紙に有効期限内の障害者パーキング許可証のコピーを添付して提出したのだった。「25ドルとはちょっと残念だったね。もう一回手紙書いてみる?」と私が促すと「いやいや、250ドル払わされるところを25ドルにまけてくれたんだから十分満足。助けてくれて本当にありがとう」と満面の笑みで答えた。
カンパチ(先週)の後に食べた、友人手作りのズッキーニケーキ

 いいニュースはこれだけではなかった。明晩、成績優秀生の表彰式に出るという。これは学業、品行、社会貢献度など全方位の人間性を見て特に優秀と思われる学生を大学側が年に一度選んで表彰するもので、今年はアグネスがその一人に選ばれた。「それは、おめでとう!」とラボ中から歓声が上がった。
 「なんか学校に対してとてもやる気ができちゃって、今日、来学期の英語のクラスの登録までしちゃった」とアグネス。「へえ、どのクラス?」と聞くと「ほんとは取れないクラスなんだけど、その先生の評判がとてもいいので無理して入れてもらったの」「ふうーん、どうやって?」「今学期とった英語の先生がとてもいい先生だったの、で、その先生に『次のレベルを教える先生の中から私に合う先生を選んでほしい』と頼んだら『○○先生がぴったりよ』と推薦してもらったの。そしておまけに今の先生は次の先生のオフィスへ一緒に行って私のことを紹介までしてくれたのよ」。
 私はこれを聞いた瞬間、アグネスには自分で自分の人生を切り開く力が備わっていると思った。駐車違反切符をもらってラボに助けを求めに来た力と次の英語のクラスの先生を選ぶのに今の先生に意見を聞いた力、この二つは一見異なるようで実は同じセルフ・アドボカシーのことを言っている。
 「重ね重ね、今年はいろいろとありがとう。あなたたちがいなかったらこういういい結果にならなかったと思う」と言うアグネスに、「あなたが助けたくなるような人格者だったから、こっちも思わずすべき仕事をしたまで」と言ってお互いによい気持ちで別れた。

セルフ・アドボカシー−自分の要求を(ただ声高に訴えるのではなく)周りの状況や人の気持ちを考慮しつつ理路整然と説明できる能力、行動(著者解釈)