守秘義務(コンフィデンシャリティ)

 私の仕事の一部には、各学期前にノートテーカーになる学生アルバイトを雇って彼らをトレーニングするというのがある。明日からの新学期に備えて、先週木曜日に新規・継続アルバイトの合同ミーティングをした。各学生にクラスの割り振りをした後、ノートテーカーとしての心構えの大事な点をさらう。学生は、週20時間以内であればキャンパス内で働くことができる。色々な仕事があるが大体時給8ドルから10ドルの事務補佐的な仕事が多い。が、中にはそれ以上の賃金を出してもよさそうな仕事もある。ノートテーカーはその一つだと私は思う。その理由は、授業を完璧に理解して自分のためでなく、障がい学生に合わせたノートをとることができること、障がい学生がそのノートを見て理解できたか、文字が読みやすかったかどうか、など障がい学生とこまめにコミュニケーションをとることができること、クラスの教官に自分の役割をきちんと説明できて教室ではクロゴに徹すること、などこまごまとしたことをきちんと果たさなければならないからだ。教師といえども人間、人によっては、ノートテーカーが気に入ってしまい「君、優秀だからもっと発言していいよ」だの、「君のノート、私に見せてくれない?」だの、場違いな発言をする人がいるのだが、そういった場面でも教師の威力に屈することなく、臨機応変に適切な返答をすることが求められる。

我が家のバーベキュー。細長い魚はオペル(アジ科)。トングでひっくり返している紫の野菜はオキナワン・スウィートポテト(沖縄の紫いも)

 ノートテーカーのミーティングでは、実際に過去にあった意外な場面を紹介しながら、こういう時はこう言う、ああいう時はああ言う、というように正しい心構えをつくるよう促すのだが、それにしても人間同士のコミュニケーションでは予測できないことが起こる。今回のミーティングで話題になったのは、「障がい学生がおよそ誰だか推測できている教官から、『○○(障がい学生の名前)の障がいって、いったい何なの?』と聞かれてどう答えるか困った、という場面。昨今の傾向は目に見えない障がいを持つ学生が増えているのでこういう場面は多々ある。下はこの質問に対する学生アルバイトの主な意見。
 A:それは答えられません、って言う
 B: 細かく言わずに、なんか精神的なものじゃないですか、と適当に言う
 C: 知りません、と言う
 D: 障がい学生サービスセンターのカウンセラーに聞いてください、と言う
この4人は「障がい学生のことについて知っていることは、名前も含めて一切他言してはならない」というノートテーカーの守秘義務を守るため、上記のような返答をした。守秘義務を守っただけでもアルバイトとしては合格なのだが、この質問に対するベストアンサーは、実は「質問には質問で返す」ことである。つまり、
 ベストアンサー:その今のご質問を○○さんに直接聞いて見ましたか?
これは、ノートテーカーの守秘義務を守りながらも、障がい学生も一人の独立した大人の人間として扱い、直接コミュニケーションをとるようさりげなく教官に啓蒙している点でベストアンサーなのだ。
 こういう能力は時給8-10ドルのアルバイトという意識ではなかなか鍛えられない。障がい学生や教官と適切で必要なコミュニケーションのとれる学生アルバイトに対しては、さんざんに褒めちぎってなるべく長く勤めてもらえるようにお膳立てするのが、私の仕事だ。