神話を真話に(2)

 (前回よりの続き)ルース博士の講演にはご主人で行動療法学者のスティーヴン博士も来られていた。「純粋に行動(環境)に原因がある場合には行動療法は効くけれども、心臓発作や精神疾患など心身の異常が元で行動が出ている場合には効かない。何が原因で行動が出ているのか、徹底して原因を追求することが大事だ」と補足した。意外なことに、4)の過剰投薬が問題行動の原因になることがある。ルース博士によれば、「異常」に見える行動の中には、薬の副作用として現れるものがあり、身体のための薬の50%には異常行動を発現させる副作用が、大なり小なりあるという。例えば胃腸薬。わたしも時々飲む市販の薬にも行動に異常をきたす可能性があると聞いて驚いた。薬を飲む側も気をつけなければならない。が、医者も「3時間待ちの3分診療」的な限られた診察時間内に、まして普通の言語コミュニケーションの難しい患者との会話を省略せんがために、家族や周りのスタッフの言い分のみを信じて診断するようなことは避けなければならない。知的障害の患者とのコミュニケーションが困難なために、家族やスタッフから「問題行動を抑えてほしい」といわれて機械的に不適切な薬を処方したりすることは、こと知的障害のある患者に関してはアメリカでも驚くほど多いという。
ハワイ王朝第七代のカラカウア王のサマー・コテージ。ルース博士の講演のあったホテルの敷地内にある

 高名な医者でさえ「知的障害者は痛みを大げさに表現する」とか「痛みを感じない」とか前近代的なことをいまだに信じている人がいる、とルース博士はいう。かつて彼女の知り合いに、必要な検査を怠ったために聾の知的障害の患者の子宮筋腫を見つけられなかった産婦人科医がいた。ルース博士にそのミスを指摘されたその産科医は、その時になって初めて手話通訳者を雇い、聾の患者に向かって「これはとんでもない重大なミスをしてしまった。大変に申し訳ない。わたしはこれから全身全霊をかけてあなたの治療に専念したい。だが、あなたがわたしを(コミュニケーションを怠って誤診したのだから)嫌いになっても当然で、その気持ちは十分理解できる。その場合はわたしの知り合いから優れた医者を紹介したい」と言ってその聾の患者に深々と頭を下げた。するとその患者はニコッと笑って「じゃあ、あなたに治療をお願いします」と答えた。このエピソードは、講演の聴衆(知的障害者の支援者)の医者不信をちょっと和らげてくれた。こういう医者が増えてくれれば誤診された知的障害者も浮かばれるというものだ。(続く)