ナチュラル・サポート

 先日、上司がラボにやってきて「この学生にノートテーカーをつけてちょうだい」とファイルを見せながら言う。早速、今雇っている学生アルバイトのノートテーカー15人のスケジュールを見て、その学生のクラス時間に空きのある3人のノートテーカーを選んで連絡する。幸いみな快諾してくれた。
 ノートテーカーは障がい学生の障がいについて基本的な情報をもっているが、一切部外秘である。これについては私はうるさいくらい念を押してみなに言っている。新たに追加されたこの学生、ノラについては「どうういう障がいがあってノートテーカーは何に気をつければいいのか」と上司にたずねると、癲癇(てんかん)だという。つい一週間前も家で発作があってしばらくはボーっとする、ということだった。いつその発作が起こるか本人もわからないからどうしようもない、発作が起こったらそれまでだ、と言うので心中「ええっ」と思ったが、それ以上の情報がないので、とりあえず、ラボにあったパンフレットの「てんかん障がいについての基本的知識」をコピーしてノートテーカーに渡した。
 数日後、上司がやせ気味の若い女性を連れてラボに入って来た。「これがノラよ、何かあればお互い連絡するように」と言う。それで彼女と初めて話す機会ができた。
若葉が赤いのでさまざまな伝説のあるアマウ(シダ類)。その一つは、火の女神ペレの宿敵カマプアアがペレと対決したときに負けてひげを火で焦がされた。その燃えたひげが赤い葉になって蘇った、というもの

 私:ノートテーカーたちはどう?
 ノラ:みんなよくやってくれています
 私:てんかんの発作がつい先週もあったということだけど、キャンパスやクラス時間中に起こる場合も考えられる?
 ノラ:いつでもどこでも起こるよ。でもいつ起こるかは自分でもわからない
 私:そのことを教官やクラスメートに言っておくほうがいいんじゃないかな?あなたの安全のためにも
 ノラ:でも発作が来るときはじわじわと予兆がくるから、教室にいればすぐに外に出るし、薬と水もいつも携帯してすぐ飲めるようにしている。それと、クラスメートの中に親友と叔母がいて、彼らだけは私の障がいのことを知っているから、本当にひどいときは彼らが助けてくれる。教官たちにも手紙でそのことをちゃんと知らせてある
 これを聞いて私は驚いた。ノラは若いけれどちゃんとすべきことをしている。こちらの心配は杞憂に終わった。
 この職業を長くしていると、障がい学生を健常学生よりは危なげな存在に思い、つい過保護になってしまうことがある。だめだめ、18歳以上の大人はやはりその自立心を尊重しなければ。ノラには、障がい学生サービスセンターという外部機関にあまり頼らず、自分のナチュラル・サポート、つまり家族や友人をまず活用してみよう、という自立心がある。アジアの障がい者政策ではナチュラル・サポートに負担をかけすぎていることが多いが、アメリカは政府機関のサポートに頼りすぎていることへの反省もあって、最近はクライアント自身のナチュラル・サポートを開拓しようという動きがでている。ノラとの会話で私はそのことを新たに思いおこした。
ハワイ州の法的成人年齢は18歳。州によって異なる。