アメリカの聴覚障害学生支援サービス

 私は難聴者で、日本にいるときから全日本難聴者・中途失聴者団体連合会(全難聴)という自助団体に属している。その団体は各都道府県にある中途失聴者・難聴者協会と深いつながりがあって、各協会から東京の事務局へいろいろな問い合わせが来る。先日、香川県の難聴者協会の方が東京の全難聴の事務局へ「アメリカには要約筆記というサービスはないのか」と問い合わせてきて、これが私の属する国際部のメーリングリストへ転送されてきた。たまたま私はハワイに住んでいて今ハワイ大学へ通っているし、以前カリフォルニアでも学生だったこともあって、この質問に対して返事をした。それが香川の難聴者協会の会報に掲載されたので、今回はそれをそのまま転載することにする。

ボルケーノ村で人気の釜焼きピザがおいしいレストランで。ガーリックトーストとなすとトマトのパルメザンチーズ焼き

###
アメリカ在住トータル14年、今はハワイに住んでいる難聴者です。10年前に卒業したカリフォルニア州立大学大学院では難聴学生支援のサービスを受けていました。アメリカの難聴学生支援にはまずノートテーカーがあります。これは日本の要約筆記よりずっと量は少ない普通のノートテークのことですが、ろうや難聴の学生の ためにはノートテーカーもできる限り多くの情報を書くことを求められます。そのためにオンラインのトレーニング教材もあります(NTIDー国立ろう工科大 学監修)。それから日本でも一語一句表記のパソコン要約筆記がありますが、アメリカではずいぶん前からCART(Communication Access Realtime Translation)といって一語一句漏らさず完全にタイプする特殊な速記法を学んだ人(法廷速記者)が教室に来てくれて授業内容をもらさずタイプしてくれます。つまりまとめると、聴覚障害学生のための人的・技術的支援には
1)手話を使う聾の学生のための手話通訳
2)手話を使わないオーラルろう・難聴・中途失聴学生のためのCARTやECHO(音声認識ソフトを使ったプログラム)=要約しないで一語一句完全文字表記システム
3)ノートテーカー=普通のノートテーカーだが聴覚障害学生のためのトレーニングは受ける。日本の要約筆記ほどの量は書かない(というか、一人なので書けない)
4)FMシステムなど援助補聴機器
5)ビデオなどはすべて字幕つき
ちなみに1)-5)を全部受けることはまずなく、普通は1)と3)と5)、2)と3)と4)と5)という組み合わせになります。大学によってはこのようにたくさん出さないところもあります。クラスの大きさや授業のスタイル、また聴覚障害学生の失聴のレベルなどによって、不必要になってくるサービスもあります。ちなみに私が通ったサンフランシスコ州立大大学院では2)、3)、4)、5)を受けていましたが、小さなクラスではFMだけで充分でした。CARTはとても高い(時給200ドル以上)ので、なかなか提供してもらえず、嫌味を言われたりしながらバトルの末勝ち取りました(たぶんその大学は破産寸前までいったかも)。貧乏大学では学生が声高に権利を要求しないとまずいろいろとは出してこないです。上のリストは、あれこれこちらが調べて要求した結果出てきたものです。現在は仕事しながらハワイ大学の大学院のクラスを受講していますが、これはゼミが小さいのと、教授が「ノートは あまり必要ないよ」というので、たぶんノートテーカーは雇わず、FMだけになるかなと思っています。いや、後でやっぱり必要だと思ったらリクエストしますが。
 「要約筆記はアメリカにはない」と断言できないのは、アメリカには「要約して」内容を表記する必要がなかった、という歴史的背景があるからです。CARTが早くから発達しており、速記タイピストも手話通訳者なみにいます。日米では言語体系が異なるため、難聴者支援の方法と発達の背景も異なります。アメリカは少なくとも「要約」筆記の機能はノートテーカーとCART・ECHOが充分果たしており、一語一句知りたければ手話通訳か CART/ECHOをみて、要約が知りたければノートを見る、という風に両方活用します。お察しのとおりCART/ECHOは情報量が膨大になりますので 慣れてくると飛ばし読みしてだんだんノートのほうを読むようになってきた、というのが私の経験です。