ふたつのチーム

 今週は、障がい学生が普通校での生活を満喫するには、二つの別個のチームがうまく連携・機能することが必要だと再認識した。ひとつは、学生(とその親)が中心になってつくる学生中心の支援チーム。もう一つは、学校でその学生の支援を最初にする立場にある専門家 (多くは障がい学生サービスセンターのカウンセラー)を中心とするプロの支援チーム。どちらのチームも学生が普通の学園生活をおくるのに、つまりクラスメートと友達になったり平均以上の成績で卒業するのには必要である。
 学生中心チームの重要性を痛感したのは水曜日(27日)。ヒロの町でダウン症の娘さんを持つお母さんの講演があった。今では全米各地で講演されるほどの方で、今回はペンシルバニア州からハワイへ講演に来られた。娘さんはもう27歳。手話をマスターし聞こえない子どもたちの教員助手として働いている。高校一年生のときに「普通の大学へ行きたい」という娘さんの意志をお母さんがしっかりうけとめ、見事普通大学への入学と卒業を果たしたのだが、その紆余曲折の努力の中から生まれたのが「学生中心支援チーム」構想だという。「これは、学校の特殊教育のプロがつくるチームではなく、娘と私がつくった支援チームです」とそのお母さんは言う。これは3つの小集団から成り立っている。一つは医者、理学療法士、作業療法士など障がい生徒・学生の身体的発達に欠かせない医学の専門家。二つ目は特殊学級の教師、校長、言語療法士など教育の専門家。そして三つ目は家族の友人、親戚、近所の人、教会のメンバーなど精神的サポートに欠かせない普通の人々。これら三つの集団の人たちとの信頼関係が娘さんの普通大学進学・卒業には不可欠だったという。これは障がい生徒・学生が中心につくるアドボカシー・チームである。アドボカシーは一人より多いほうが心強い(アドボカシーについては16日末項参照)。
今真っ盛りのカヒリ・ジンジャー。かぐわしい芳香を放つ生姜科の花で観光客はよく写真を撮るが、実はヒマラヤ原産の外来種。その華麗な容姿と香りに魅せられた人が40年代に2,3本庭に植えてみたところ、いまやハワイ島中の固有種を脅かすほどの猛威で増殖中。火山国立公園内では毎日のように伐採業務に追われている。

 もう一つのチームはプロの専門家チーム。翌日の28日、岡山から研究に来られている大学の先生の通訳として、ハワイ大学ヒロ校の障がい学生支援室を訪ねたときに痛感した。「障がい学生の支援は私一人ではできない」と、障がい学生支援室のカウンセラーが何度も言っていたからだ。たとえば障がい学生といえども普通の学生と同じように悩みや問題はある。どのクラス・専攻を取ればいいかわからなければ、アカデミック・アドバイザーのところ、恋の悩みなど個人的なことは心理カウンセラーのところ、寮生活に問題があれば寮のカウンセラー、財政的な問題があれば財政援助課、心身に問題があればキャンパス・クリニック(軽い症状の薬なら身体・精神とも処方してもらえる)、ここで手に負えない重症者は地域の普通の病院・診療所へと照会をする。さらに障がい学生支援室のことを広く一般に知ってもらうためにハワイ大学のウェブ・デザイナーと協同でわかりやすいホームページも作った。教官の障がい学生に対する理解を促すためのトレーニングもする。一人の障がい学生を支援するということは教育上のことだけを助けるということではないことは、この連携体制を見ても明らかだ。
 日本ではインクルージョン教育が脚光を浴びているということだが、この二つのチーム=生徒の支援チームとプロの支援チーム=が存在・協同してこそはじめてインクルージョンが成り立つのではないだろうか。