カウンセリング的な場

 コクア・ラボにはいろいろな機能があるが、場所がひとつしかないというジレンマについて前回書いた。でもタイミング的にうまくいけば、異なる機能をちゃんと発揮できる。先日、社交的なヘレンがやってきて、来年度の奨学金の申請に苦労しているという話を私にし始めた。親からの仕送りなど他からの援助一切なしで大学に通う彼女には苦労が多い。っと、内容が新しくできたボーイフレンドに移った。家庭内暴力など小さいころから苦労しまくって育ってきたヘレンに比べ、新しいボーイフレンドは裕福で円満な家庭出身なので彼女の苦労が実感としてわからない。悲惨な話をしてもあまり反応がなく「のれんに腕押し」だ、とこぼす。こういうプライベートな内容の話をしばらく聞いていると、タク(3月10日参照)がラボにやってきた。話の内容のプライベートなわりには大声で熱弁をふるっているヘレンを見て、沈思な学者肌の彼は聞いているような聞いていないようなふりしてしばらく後ろにいたが、なんとなく私たちのいるテーブルへやってきて端に座った。それでもヘレンの熱弁は続いている。ヘレンはもちろんタクが話の輪に入ったこともわかっている。が、物怖じしない性格の彼女は、ここはまず誰でも聞いてもらえる人に自分の問題を聞いてもらわなくちゃ、とでも思ったように話をやめない。ヘレンの障がいはタクと同じ脳性まひで、気心知れた仲間に聞いてもらうのはかまわないと思ったのかも知れない。
ココナッツ・アイランドから望むマウナケア。ピクニックテーブルに車椅子姿の人が見える。ヒロではごく自然な光景だ。

最初はなんとなく私に向いてしゃべっていたヘレンが少しずつタクのほうにも視線を送りながら、ボーイフレンドに対する不満を続けている。するとタクが「どうして今のボーイフレンドとつき合い始めたの」と問題の本質を問う質問をした。「それまでの彼氏はみなアル中だったり平気で自分の作った約束を破ったり全く人間としてあてにならなかったから、今の彼と付き合い始めたらやっと静かで平和な気持ちになれた」という。その後だんだんと話はヘレンとタクとの応酬になっていった。しばらくすると別の学生が入って来たのでなんとなくそこでこのプライベートな会話の応酬は途切れた。この間およそ20分くらいか。
最初は彼氏に対する不満として始まった話が、実は問題の根本は自分の思考パターンにあるのかも知れないという内省の気持ちがヘレンに芽生えてきたところだった。タクはカウンセラーどころかヘレンと同じ学生だが、相手の話を辛抱強く聞いただけでヘレンを助けた形になった。本人は助けようなどという意識もなかっただろうし成り行きでそうなっただけなのだが、タクのしたことは結果的にヘレンにとって「カウンセリング的な効果」をもたらしたといえる。何も経験と資格のあるカウンセラーに1時間いくらで話を聞いてもらうだけがカウンセリングではないと思った。「カウンセリング的な場」というのは実は日常のどこにでも転がっている。ただ「カウンセリングな効果」を与えられるかどうかは聞く側の話の受け止め方ひとつで決まるのだ。