コクア・ラボ

 東北地方太平洋沖地震で被災した方々を埼玉アリーナが受け入れるというニュースを知った。埼玉アリーナは本来スポーツとかコンサートの施設だろうが、しばらくは未曾有の地震で住処を失った人たちの仮設住居となるという。埼玉アリーナのオーナーは、建設当時、施設目的にこういうことを念頭に置いたのかどうかわからないが、形にとらわれず現実のニーズにとっさに反応したのはすばらしい。
イチゴが旬


 私はこのブログのプロフィールに「障がい学生のためのコクアラボ管理人」と書いた。この「ための」という3文字には埼玉アリーナのように、当初の目的を超えた機能がある。コクア・ラボはADA(障がいをもつアメリカ国民法)の発効後(1992年)、障がいのある学生が使いやすいよう最新のアシスティブ・テクノロジー(Assistive Technology)をそろえた特殊ラボとして設立された。特別なソフトを備えたコンピュータープログラムを使って静かに勉強する場所という目的で始まり、今もラボの最大の存在理由はこれだ。だが、私がここの管理を任されて始めて何ヶ月かすると、これ以外にももっと大きな機能がラボにはあることに気づき始めた。それは障がい学生同士のピアサポート、つまり単なるおしゃべりであったり、悩みを聞いてもらったり、得意教科をそうでない友人に教えてあげたり、といった、精神的サポートを得る場、ということだ。
 いつだったか、おしゃべりをしていて諌めなければならなかったマーカスのことを書いたが、これはラボにはそのとき別の学生が何人かいて静かにする必要があったからだ。だが、もしマーカスが友達と二人だけだったら、私は彼が友達と大声でしゃべることを許しただろう。若い障がい者は往々にして、障がいが理由で友達ができにくかったりいじめられたりして疎外感を味わう。自分のつらい体験や欲求不満をぶつけるところがなく、鬱々としてしまったり、奇怪な行動に出たり、引きこもったりという精神的リスクがある。そこで誰かにその思いを伝えるということは、メンタルヘルスをケアする上の非常に大事な第一歩なのだ。マーカスとは後で話す機会があって、「もし大学にもっと予算があって私にもっと経験と能力があったら、ラボをもうひとつ作ってそこは社交の場所にするんだけどね」と言ったのだが、彼はそれを聞いて私のジレンマ(ラボがひとつしかないという)を理解してくれたと思う。静かに勉強する学生がいなくなると、障がい学生同士でグループプロジェクトについて話し始めたり、新しいボーイフレンドのことを話し始めたり、カウンセラーやスタッフそっちのけで、仲のよい友達に話したいことを自然と話し始める。こういう場面に出会うと私は、これこそが障がい者のセルフ・ヘルプ(相互援助)のあるべき姿で、カウンセラーやスタッフなど要らなくなる世の中が最も理想的だ、と思うのだ。
 *コクアラボ(Kokua Lab)−3月6日写真参照。コクアはハワイ語でヘルプの意。だからコクアラボはお助けラボ。障がい学生センターに登録する学生が利用する所で、常勤の私のほかに学生アルバイトのサポートスタッフが常時いる