記憶障がいとノートテイカー


ボルケーノ村からヒロタウンへ行く通勤途中で
 
前回紹介したアンディ君の第二話。彼はテスト時の配慮のほか、通常の講義の時にはノートテーキング・サービスというのを受けている。つまり自分の代わりにノートをとってくれる人がいるのだが、これは障がい学生サービスセンターより派遣される学生アルバイトだ。私はそのコーディネーターをしているが、言語理解力・筆記力・集中力にすぐれ、障がい者福祉に経験や関心がある学生を選ぶようにしている。アンディ君のノートテーカーは、教育学部生で障がい者福祉にかなり関心のある主婦学生ナナさん。彼女の書いたノートの内容のことで最近アンディ君との間に一悶着あった。聞けば、「この2週間の間、毎日ノートにはっきりと書いたのに、アンディ君は『知らなかった』っていうんですよ」。毎日書いた内容とは、「ハワイ大学学長がホノルルからやってくる。その招待ディナー準備のため、料理学部の学生は授業後残って手伝うように」というものだった。担当教授はその日まで2週間、毎日それを繰り返しクラスに言った。ところがアンディ君は2週間後の当日の朝になって「し、し、知らなかった!」という。ナナさんも驚いた。ノートを見せてもらうと、確かにノートには「ハワイ大学学長招待ディナー」と書いてある。その部分を指差してアンディ君見せると「うん、そういう行事があるのは知っていたけど、そのために自分が授業後居残りしなければならないことは知らなかった」。この言葉が普通の記憶力の持ち主から吐かれたならば、屁理屈か言い訳にしか聞こえないが、アンディ君は短期記憶力がまるでない。だから、たとえ毎日居残り義務の事を耳で聞いていたとしても、家でノートを見るときには覚えていないから、もしノートに行事のことしか書かれていなければ、それが自分にどう関係するのかわからなかったのだ。「これこれこういう行事がいついつある。生徒は何時から何時まで残ってこれこれするように」というふうに書かれていたら彼にも理解できただろう。「あれだけ毎日聞いていても覚えられないなんて」とナナさんもアンディ君の記憶力について衝撃を受けていた。
私もこの事件のおかげでアンディ君の記憶力というのをより具体的に知ることができた。ナナさんと話し合って「これからは重要なイベントがあるときは、その内容の要約だけ書くのではなく、どういうことを実際にしなければならないのか、行かなくてもいいイベントなのかというように、アンディ君自身がどういう行動をとるべきなのかわかるように具体的に書く」ということになった。