合理的配慮は宝さがし

 学期末が近づいてきて、クラスをパスするかどうかすれすれの線をさまよっている学生がよくラボにやってくる。「クラスをやめたいが不可はとりたくない。どうしたらいいか」、「ドロップしたくてもできないからがんばるが、パスするかどうか自信がない」、「死ぬ気でがんばってパスするしかない」など、みな悲壮な覚悟で心境を語る。アメリカの大学は入るのは簡単だが、卒業、いやそれどころか一学期の一クラスさえパスする(日本の大学の優・良・可までの成績をとる)のが難しい。クラスの全学生の三分の一に「不可」を出した講師さえいる。
 先週末、しばらく顔を見なかったニキがしばらくぶりにやって来た。「英語のクラスを落第しそうなんだけど、絶対パスしなくちゃならない。今度のテストで、誰かテスト問題を読んでくれる人がいれば絶対パスできる」という。ニキには精神障がいがあて不安感がつよい。個室受験でもコンピューターを前に一人でテスト問題を読むだけだと気が散ってだめらしい。それで、「じゃあ、リーダー(テスト問題を読む人)をテスト室におくりましょう」と言ったら、うれしそうな顔をして去った。
我が家の前庭。もうちょっと草木が伸びてくれると窓が見えなくなるのだが

 注意欠陥他動(ADHD)や不安神経など特定の障がいのある学生は、必要と認められれば個室で受験したり試験時間を延長したりできる。そのためにコンピュータールームや図書館の個室などが利用される。毎週のようにある小テストから利用可能だが、個室テスト室の確保のために、障がい学生サービスセンターへ前もって申し込まなければならない。混雑する中間試験や期末試験の時期は、障がい学生サービスセンターのスタッフは部屋やモニター(監督)係の手配で忙しくなる。
 合理的配慮というのは英語のReasonable Accommodation (リーズナブル・アコモデーション)の訳で、リーズナブルと書くと何か安価な物や器械のように思われるかも知れない。が、実際は、障がい学生の障がいの性質から、どういう配慮をすれば他の学生と同じスタート地点に立てるか、を考える合理的判断のことだ。ニキの場合のように、物や器械ではなくてテストの受け方を変えるという制度の変更なども含まれる。だから配慮の仕方は無尽蔵にあって創造力が求められる。それには学生がどうしたいのかをまずじっくり聞くとこだ。ニキには「○○してほしい」と自分から要求する自立心があったが、彼女のような自己認識力と行動力は多くの障がい学生にはまだない。だから、私たち障がい学生サービスセンターに勤めるものの役割は、そういう学生が一人でも増えるよう彼らの自立心を育てながら、そうでない学生には彼ら一人ひとりに最もふさわしい合理的な配慮は何なのかという、時には難しいがやりがいもある「宝探し」をすることなのだ。