合理的配慮と過重負担のバランス

 手前味噌な話だが、最近自分の障がいを身近に感じる「出会い」がいくつかあった。一人は日本で障がい学生のサポートをテーマに研究されている大学の方。このブログが縁で知り合ったのだが、ハワイがお気に入りでなんと難聴者だという。この8月から3ヶ月間ホノルルのハワイ大学で障がい学生のサポートについて研修される。2人目は地元の高校2年生のリック。ある日両親と一緒にラボに来た。その彼も難聴者で補聴器を両耳にかけていたがなかなか優秀なため、この夏期講座から毎学期、大学のクラスをとり始めるという。そして3人目は先週末にラボに来たダン。秋学期の申し込みに来たのだが彼も難聴者だった。古くてあまり役に立たない補聴器をしていたが手話もできないので会話が不自由そうだった(必死で話者の口の動きを読み取ろうと顔が緊張していたからわかる)。リックとダンにはエコー(ECHO☆☆)というサービスとノートテーカーがつくことになった。短い間に手話を第一言語としない聴覚障がい者に3人も出(知り)会ったのは偶然だ。
いってらっしゃい!

 さて、この聴覚障がい学生の情報保障サービスにはいろいろあって価格がとても違う。ちょっとマル秘情報だからあまり大きな声(字?)ではいえないが、FMなどの補聴援助機器(ALDs☆☆☆)はメーカーにより異なるが1ユニットで16-20万円くらいか。ただこれは一度購入すれば壊れない限り長く使える耐久品で、時間がダブらない授業を取る複数の聴覚障がい学生の間でシェアできるから学生一人当たりのコストは下がる。それから授業のたびに購入しなければならない人的サービスには、手話通訳、リアルタイムキャプショナー(CART☆☆☆☆)、ノートテーカー、とエコーがある。これらはそれぞれの技術をもつ人が授業のたびにクラスに行き時間給いくらで提供するから、聴覚障がい学生ごと授業のたびに大学がお金を出さねばならない消費サービスだ。高価な順に、CART、手話通訳、エコー、ノートテーカーとなる。CARTとエコーはどちらかというと手話をしない聴覚障がい者向け。そして前者二つはしかるべきトレーニング機関で2年以上の訓練を受けた後、資格をとった専門職にしかできない。後の二つは学生アルバイトをある程度トレーニングして雇うことが多い。前者3つはすべて、話された(聞こえた)内容をすべて一語一句漏らさず記述(表現)するもので、要約は許されない。ノートテーカーのみが要約した内容を記述する。そして多くの聴覚障がい学生はノートテーカーに前者の3つのうちどれかひとつを足した二つのサービスを受ける。授業の完全内容と要約内容の両方が得られるからだが、もちろんどちらかだけでいい場合はキャンセルすればよい。
 私はカリフォルニア州立大学に留学していたとき、FM、CART、ノートテーカーの3つのサービスを使った。当時はエコーはなくてCARTという10倍くらい高いサービスだったから、州の税金で運営している大学側からすれば私の存在はさぞ恨めしかったに違いない(ADA=障がいをもつアメリカ国民法=によれば外国人留学生であっても公立教育機関のプログラムを受けるのに差別されてはならないとある)。実際手話を母語とする聾のカウンセラーからは「お前、聴覚障がい者なら手話を使え」といわれたものだ。手話通訳のほうがCARTよりまだ安いし同じクラスにすでに聾のクラスメートがいたから私が手話通訳者をシェアすれば安上がりなのだ。限りある予算で運営している大学の職員としての本音だったのだろうが、障がい学生の権利や主張を無視した強引な言い様だと当時は思ったものだ。だが、今こうして彼と同じ仕事をする立場に立ってみれば、なるほど、10倍も高価なサービスをおいそれと要求されたくないカウンセラーの気持ちがよくわかる。
 今の私には予算編成の責務がないのであまり頭の痛い思いをせずにすんでいるが、将来もし資金繰りを任されたりするようになれば、「障がいのある学生に必要な合理的配慮(サービス)の提供者」という立場と「限りある予算で運営される障がい学生サービスセンターの職員」としてのジレンマに、私はどう対処していくのだろうか。ううん、今から頭が痛い。。。


☆ アメリカでは高校のうちから夏休みや放課後を利用して大学の授業を早々と取れるような制度があり、優等生などはこれで高校在学中にほぼ基本的な大学の講座を済ませてしまう。だから学生によってはクラスメートよりずっと早く大学を卒業できる。
☆☆ ECHO次号にて詳しく記述
☆☆☆ Assistive Listening Devices
☆☆☆☆ Computer Assisted Realtime Transcription(コンピューター入力による同時字幕表示)